チャーハンはスプーンで食べたい

 チャーハンほどおいしい飯料理はないのではないか。しっかりと味のついた白米に、細かく刻まれた材料が密に絡み合う。口にチャーハンが飛び込んで来たその時、脳は考えることを忘れ、しばしその味に支配される。様々な味を一度に味わえるのもチャーハンの良い点だ。普段の食事においては、色々な味を楽しもうと思えばたくさんの種類のおかずを食べなければならない。それはそれで楽しいことなのだが、世間の人ほど食事を楽しめない私にとっては時にそれが苦痛になる。チャーハンを食べれば、短い時間で食の奥深さを実感することができる。まさに食の王様なのである。 

 外でチャーハンを食べようと思うと、ラーメン屋や中華料理屋に入ることになる。そこでチャーハンを注文すると、小さめの皿にきれいな丘のような形に盛られたチャーハンが出てくる。だいたいどこの店に入ってもおいしいのだが、一つだけ不満がある。それはレンゲで食べなければならないことだ。

 ラーメン屋や中華料理屋にとって、レンゲはなくてはならないものである。ラーメンでスープを飲むためにはレンゲがなくてはならず、麻婆丼天津飯を食べるためにもレンゲは必須だ。チャーハンもそういった店で提供されるのだから、レンゲで食べなければならないのは当然といえば当然だ。だがしかし、である。私はスプーンで食べるからこそ分かるチャーハンの魅力があるのではないかと考える。

 スプーンは、一掬いで多くの量を口に含むことができる。そのため、口いっぱいにチャーハンの旨味を感じることができる。対してレンゲでは、あまり多くの量を掬うことができない。そのため、口に入れてもチャーハンだけの世界に浸ることが難しい。また、スプーンで食べると一粒も残さずに口に押し込むことができる。最後に残った数粒も難なく掬い、口に入れることが可能だ。レンゲでは、口に含んだ時にレンゲにチャーハンが数粒残ってしまうことがある。最後まで皿に残ったチャーハンを捕獲するのも一苦労だ。レンゲでチャーハンを食べると、フラストレーションがたまってしまう。そんな気持ちでチャーハンに向かっていっても、チャーハンの魅力を最大限に引き出すことは難しいのではないか。やはりスプーンでこそその素晴らしさを体感することが可能なのではないか。 

 レンゲの繊細なタッチを求めるチャーハンも存在するだろう。しかし、ガツンと胃袋を掴むことこそが、チャーハンの最大の魅力だと私は考える。それを引き出すには、やはりレンゲではなくスプーンでなければならない。