シンボリルドルフ・トウカイテイオー・サードステージ。ディープインパクト・コントレイル・そして、、、。

 競馬シミュレーションゲームの『ウイニングポスト』には、「サードステージ」という架空の競走馬が登場する。とにかく強い馬であり、ライバルとしてはほぼ絶対に勝てないのであまりいいイメージはない。逆に自分の所有馬にすることができればまず間違いなく勝つので気分は最高だ。

 サードステージの父はトウカイテイオー、そしてその父はシンボリルドルフである。シンボリルドルフは言わずと知れた無敗の三冠馬であり、息子トウカイテイオーは無敗の二冠馬である。テイオーは史実ではダービーで骨折、菊花賞には出走できず三冠はならなかったが、このゲームでは達成したことになっている*1。そしてその子サードステージも三冠を達成する。父子三代で三冠という、とてつもない記録を目撃する(時に所有馬としてその達成に関わり、時にライバルとしてそれを阻止する)のがこのゲームの醍醐味の一つでもある。

 しかし父子三代での三冠など、現実では起こり得ないことである。だからこそ、「もしこんなことがあったらなあ」と想像を膨らませながら我々はこのゲームをプレイし、ワクワクすることができるのだ。実際に父子三代での三冠が達成されていたとしたら、我々はこんなにもワクワクしながらこのゲームをプレイできなかっただろう。途方もないような・非現実的な事柄を追い求めることにこそ、ゲームの楽しさがあるのではないだろうか。しかし、こんな心配はする必要はない。父子三代はおろか、父子二代での三冠達成も現実にはなされていない。父子三代での三冠など、夢のまた夢でしかない。まさに「ゲームの中の出来事」である。

 こんなことを言うことができるのも、今日の菊花賞前までなのかもしれない。2020年の菊花賞はコントレイルが優勝した。これで7戦7勝、文句なしの無敗の三冠馬である。父のディープインパクトも無敗の三冠馬であり、父子での牡馬クラシック三冠は史上初。「ゲームの中の出来事」が今日、実際に起こってしまった。

 コントレイルの菊花賞はレース前に期待されたような楽勝ではなかった。道中はルメール騎乗のアリストテレスにぴったりとマークされ、最後の直線も同馬との追い比べになった。つけた着差はわずかにクビ差。正直、一瞬「抜かれた」と思った。過去の三冠馬を振り返ってみると、ディープインパクトは2馬身、オルフェーヴルは2 1/2馬身、ナリタブライアンに至っては7馬身の差を2着馬につけている。だからコントレイルのクビ差は地味に見える。しかし、このことからコントレイルが三冠馬の中では弱いということには決してならないと思う。直線で抜け出せず、さらにあれだけ長く併せ馬になっても抜かせないのは並みの馬にできることではない。デビューから5戦で見せてきた上がり最速の鬼脚よりも、この菊花賞皐月賞*2のような直線での叩き合いの勝負根性にこそ、この馬の真の強さを見ることができるのかもしれない。

 競馬史に残る偉業を達成したコントレイルだが、まだ三歳だ。古馬との対戦を通じ、今後次々と記録を打ち立てていくに違いない。今から本当に楽しみだ。しかし、どんな名馬にも引退の時は訪れる。気は早いが、コントレイルにも当然その時は来る。名馬の引退は常に寂しいものだが、このコントレイルに限っては寂しいことばかりではないかもしれない。なぜなら、「父子三代での三冠達成」が期待されるからだ。父子二代での三冠もこれだけ長期間なかったのだから、父子三代でのそれは本当に難しいだろう。しかし、史上初の親子二冠が達成された今、それは「夢のまた夢」ではなくなったと思う。「夢」と言っても良いのではないだろうか。いつか「ゲームの中の出来事」が覆される瞬間を見てみたい。そして、そこに至る前に、まずは無事に競争生活を全うしてほしい。今の願いはそれだけだ。

*1:三冠を達成しない時ももちろんある(プレイヤーの所有馬が負かした時など)。

*2:皐月賞は上がり最速。ただ、その末脚よりも直線でのサリオスとの叩き合いの方が個人的には印象的だった。