シンジ、心のむこうに

 惣流・アスカ・ラングレー式波・アスカ・ラングレー)や綾波レイ渚カヲルBIG3(BIG4?)の陰に隠れがちだが、エヴァンゲリオンの主人公はもちろんこの人、碇シンジである。彼は普段はおとなしい性格をしているが、物語が進むにつれて色々な表情を見せてくれる。今回は、そんなシンジ君の感情がほとばしるシーンをいくつか見ていきたい。

逃げちゃダメだ

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「逃げちゃダメだ」(『新世紀エヴァンゲリオン』「第壱話 使徒、襲来」より。)

 あまりにも有名な「逃げちゃダメだ」の台詞とともに記憶されるのがこの顔。本当はEVAに乗りたくない、けれど自分が乗らなければけがをしている綾波が乗ることになってしまう、ということへの葛藤がひしひしと伝わってくる。「逃げちゃダメだ」を5回繰り返した後の、意を決して「やります、僕が乗ります」と言う時の表情も非常に凛々しく、印象的だ。

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「やります、僕が乗ります」(『新世紀エヴァンゲリオン』「第壱話 使徒、襲来」より。)

 それにしてもこの状況は理不尽すぎる。よく分からない場所に(無理やり)連れてこられ、これもよく分からない超巨大な人造人間を見せられたあげく、これに乗って使徒と戦えと言われるのだから。どんな人でもイヤと言うだろう。シンジは弱々しいと捉えられがちだが、ここで乗るという決断をするあたり、やはり主人公なのだなと思わされる。

カヲル君の死

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カヲルの死を前にして。(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』より。)

 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』のシンジはあまりにもかわいそうだ。サードインパクトを引き起こした張本人として皆から辛く当たられる。その上、状況をちゃんと説明してもらうこともない。また、『:破』の最終盤で助けたと思っていた綾波レイはEVA初号機に取り残されたままであった。そんな中で彼に優しく接してくれる者は渚カヲルただ一人であった。ピアノの連弾などを通じ、シンジはだんだんとカヲルに心を開いていった。
 世界をやり直すため、シンジはカヲルとともにエヴァンゲリオン第13号機に乗り込む。しかし、シンジがカヲルの言葉を無視してリリスからロンギヌスの槍を引き抜いたためにカヲルは第13の使徒へと堕とされ、第13号機は覚醒、フォースインパクトが発生してしまう。その後、カヲルの頸部に付いたDSSチョーカーが発動、銃弾を首に打ち込まれたカヲルは死んでしまう。
 『:Q』でシンジが心を許すことができたのはカヲル君だけだった。シンジ自身の行動が結果的にカヲル君を死に追いやってしまった。この時のシンジの絶望感はどれほどのものだっただろうか。第13号機に乗っている時、二人はすぐ隣にいるようにお互いを見て会話することができた。この時も同様だ。しかし、実際は違うエントリープラグの中にいて、触れることはできない。隣にいるように見えていながら、その死を見守ることしかシンジにはできなかった。このことがシンジの絶望感をより大きいものにしただろう。見ているこちら側も辛くなるようなシーンだった。

無残な姿になった弐号機を前にして

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原形をとどめていない弐号機を目の当たりにして絶叫するシンジ。(『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』より。)

 劇場版第25話でEVAシリーズを相手に奮戦するEVA弐号機。一度は全機を倒すものの、活動限界を迎えた後に復活したEVAシリーズに捕食されてしまう。シンジが初号機で駆け付けた頃には、弐号機は原形をとどめておらず、無残な姿になっていた。それを見たシンジは絶叫する。
 弐号機がEVAシリーズに捕食されるシーンはかなりむごいもので、多くの視聴者にショックを与えたはずだ。シンジでなくとも絶叫したくなるに違いない。弐号機が相当なダメージを受けているということから、当然搭乗者であるアスカもボロボロになっていることが想像できる。シンジがもう少し早く駆け付けていれば、弐号機がこんな姿になっているのを見ることもなかったのかもしれず、アスカを助けることすらできたのかもしれない。そういう思いも含めての絶叫であったのだろう。抑えきれないデストルドーがはち切れている。このシンジのデストルドーサードインパクトにつながることになる。

綾波を…返せ!

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目が赤く光っている。(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』より。)

 新劇場版最強クラスの第10の使徒。EVA零号機はN2爆弾を持って特攻を仕掛けるがこれを倒すことができず、逆にパイロットの綾波ごと捕食されてしまう。遅れて参戦したシンジと初号機は第10の使徒相手に互角以上の戦いを見せるが、活動限界が来てしまう。このままなすすべもなく敗れてしまうと思われた初号機だったが、綾波を助けたいというシンジの強い思いに応えて再起動。第10の使徒を圧倒した後に綾波を救出(したはずだった)、これがニア・サードインパクトにつながることになる。
 この目が光る場面でシンジは「綾波を…返せ!」と言って初号機を再起動させるが、この後のシンジが相当かっこいい。「僕がどうなったっていい。世界がどうなったっていい。だけど綾波は、せめて綾波だけは、絶対助ける!」と言ったり、綾波の「私が消えても、代わりはいるもの」という言葉に対して、力強く「違う!綾波綾波しかいない!だから今、助ける!」と言ったり。なんとしてでも綾波を助けようという気持ちがあふれ出ている。そのあまりのたくましさに、この時のシンジを「シンジ君」ではなく「シンジさん」と呼ぶ声もあるほどだ。*1
 余談だが、旧劇場版の『Air/まごころを、君に』とこの『:破』で、アスカは二回とも戦闘時にシンジに見捨てられてしまった。前者では、シンジがなかなか初号機に乗ろうとしなかったために一人でEVAシリーズと戦うことを余儀なくされ、目も当てられないほどの惨敗を喫した。後者では、アスカが乗ったEVA3号機が使徒化した際、会敵したシンジが戦闘を拒否したため、ダミーシステムによって動かされた初号機によって2号機は八つ裂きにされ、アスカが乗ったエントリープラグは真っ二つにされてしまった。その結果、『:破』でこれ以降アスカの出番はなかった。公開延期となっている『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』では、シンジがアスカを助ける姿が見たいものだ。


 


 
 

*1:「シンジさん(しんじさん)とは【ピクシブ百科事典】」(https://dic.pixiv.net/a/シンジさん)、2020年6月5日閲覧.など