奇跡を待つより、、、 —新旧エヴァ名シーン比較②—

 前回のブログでは『新世紀エヴァンゲリオン』と『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(と『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』)の「笑えばいいと思うよ」の周辺のシーンを比較した。今回はその第二弾として、「奇跡を待つより○○○努力よ」のシーンを比較してみたい。

 このセリフには以下の2パターンが存在する。

①「奇跡を待つより捨て身の努力よ」
②「奇跡を待つより地道な努力よ」

 ①は葛城ミサトの台詞、②は赤木リツコの台詞だ。同じような内容でありながらも、2人の性格をギュッと凝縮したような重要な台詞だと思う。

 葛城ミサト「奇跡を待つより捨て身の努力よ」
 この台詞はテレビシリーズの「第七話 人の造りしもの」で登場した。この回では、日本重化学工業共同体が造ったジェット・アローン(JA)が登場する。JAは核分裂炉を内蔵しており、連続150日の運用が可能とされている。また、遠隔操作のためパイロットが乗る必要がない。これでもし使徒A.T.フィールドを中和することができればEVAより良い兵器と言えるのかもしれないが…
 ミサトとリツコはJAの完成披露記念会に出席し、その公試運転も見ていくことに。そこであろうことかJAが暴走してしまう。JAが自然停止する確率は0.00002%、まさに奇跡だ。そこで飛び出したのがミサトの「奇跡を待つより捨て身の努力よ」である。
 ミサトはEVAの運用において突飛な作戦を思いつき、実行することが多い。ヤシマ作戦ガギエル戦において使徒の口に戦艦をぶちこむ作戦、空から降ってくる使徒をEVAでキャッチする作戦などなど…どれも失敗していればとんでもないことになっていただろう。ミサトは追い込まれた時、ハイリスク・ハイリターンを選択する傾向が強い。
 JAが暴走した時も、ミサトはハイリスクな方法を選んだ。自らJAに乗り込み、停止させるというやり方で、まさに「捨て身」である。何とか暴走を止めることができたものの、失敗すれば自身が死に、おまけにJAも爆発するという大変なことになっていた。
 無鉄砲とも言える人にEVAの作戦指揮を任せるNERVという組織は大丈夫なのかという考えが頭をよぎる。が、それはさておき、葛城ミサトという人を象徴する言葉としてこの台詞を覚えておいてもいいだろう。

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暴走するJA。『新世紀エヴァンゲリオン』「第七話 人の造りしもの」より。

赤木リツコ「奇跡を待つより地道な努力よ」
 リツコのこの台詞は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で登場した。この時、第8の使徒がNERV本部目がけて落下してきていた。碇指令・冬月副指令は月面のタブハベースを視察中で不在、連絡も取れなくなっていた。現場トップとなったミサトはEVA3体で直接使徒を受け止めることを決定。リツコはMAGIの検証の結果、この作戦が99%強の確率で失敗するとして反対し、「奇跡を待つより地道な努力よ」と言う。
 ここで言う地道な努力とは、リリスと初号機の保護を最優先とするというもの。リリスと初号機はサードインパクトでも重要な役割を果たすし、他の2機より優先度が高いのは当然だと言える。MAGIも松代にバックアップを取ってあり、この2つを守ることができれば最悪の事態は免れる。損失は確実に受けてしまうが、最小限に食い止めるというのがリツコの姿勢だ。いたって現実的である。リツコさんが戦術作戦部も兼務したらいいのにと内心思ってしまうのは私だけだろうか。実際、テレビシリーズで初号機とシンジが使徒に取り込まれてしまった時(第12使徒レリエル戦)は指揮を執っていた。しかしミサトのとんでもない発想力がなければ倒せない使徒もそれなりにいたわけで、何とも言えないところではある。

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リツコ「奇跡を待つより地道な努力よ」『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』より。

今回のまとめ
 2人の「奇跡を待つより~」の台詞は非常に似ているが、両者の性格の違いを如実に表すものであった。「捨て身の努力」派のミサトは、追い込まれた時、ハイリスク・ハイリターンな方を選択する。ハマれば最高だが多くの場合全てを失うタイプだ。一方「地道な努力」派のリツコは、追い込まれても冷静に最少失点で切り抜けようとする。
 性格が正反対な2人だからこそ、大学時代から10年以上も良い関係を保てているのかもしれない。